黒風呂の思い出
子どものころ、我が家には「黒風呂」がありました。
「黒風呂」は、うちで呼んでいた通称で本名「まこも風呂」。
小4の時から同居を始めた祖父が「マコモ」の粉末を定期購入していて、食後に飲んでもいましたし、それを風呂に入れて入浴もしていました。
ぎょっとするのが、なんでも「マコモ」を入れた風呂は、マコモ菌が、垢やら悪いバクテリアを食べてくれるので水が腐ることがなくなる。だから1年間、水を変えることなく入れる!ということ。
毎日追い炊きをして、水が減ったらその分足して、マコモの粉を追加して入っていました。
こげ茶色の、なんややらちょっとドロッとしたテキスチャーの、ほんのり甘いような、結構なにおいを発する、全く洗わない風呂。
1年分の、おじいちゃんおばあちゃんエキスをたっぷり煮出した発酵風呂。
意を決して入ったこともありました。が、基本的には非常に気分が悪い。
ぬるりとした感触。
温められ、蒸気となって立ち込める、吐き気をも催すなんとも言えない匂い。
自分の体も、中に得体のしれないモノが入っていても見えない濁った沼のような液体。
お風呂に入ってリラックスするどころか、罰ゲームをしている気分。ものすごく頑張って5分が限界でした。ある意味スリルがあって楽しかった思い出です。
同居以前はマコモ風呂のみがあったわけですが、同居を始めるにあたり、父母の強い希望で、同じ浴室内にもう一つ、普通のバスタブを設置することで、家族皆のリラックスタイムは保たれることとなりました。
10年~15年ほどその状態でしたが、ねっとりした水を追い炊きしまくったせいか、風呂釜が壊れたのをきっかけに廃止するまで、我が家では
「おじいちゃん、今日は黒風呂炊く?」
だとか、
「今日は白風呂(普通のお湯のふろ)でいいや」
だとか、そんな会話を日常的にしていました。
たまに友人が遊びに来たとき、もちろん入ることはすすめませんが、まこも風呂を見せるとみんなドン引きしていました。
今思い出しても、自分の家のことながら引いてしまいます。
マコモ風呂、その効能
この、マコモ風呂。
効果としては免疫力を爆上げしたり、浄化作用があったり、アトピーにも効くそうです。私も子供のころからアトピーに悩まされていたので、本当は毎日入っていれば治ったのかもしれませんが、、、それよりはきれいなお風呂でゆっくり遊ぶほうを選んでいました。
効果あってか、祖父は非常に頑健でした。もともと力仕事をしていたのもあるかもしれませんが、年をとっても体力も気力もあり、ほとんど病気もしませんでした。
ただ、同じく毎日マコモ風呂に入っていた祖母はそれなりに病気をしたり寝込んだりもあったので、単に個人差だったのかもしれません。
マコモとは
イネ科植物
この、私の中の記憶ではただただ怪しい健康食品マコモ=真菰ですが、古くから日本で大事にされてきた植物です。
水辺に生える稲科の多年草で、葦のようなかんじですね。1〜2mまだ伸びます。東南アジアを中心に広く分布。稲が伝来する以前から日本に自生していたと言われ、古事記や万葉集にも登します。
『マコモダケ』は花芽に黒穂菌が寄生し、根元が筍状になったもの。筍やアスパラに似た食感で生でも炒めても美味しいそうです。
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神聖なものとしての真菰
古事記の「宇摩志阿斯詞備比古遅神(ウマシアシカビヒコジノカミ)」がこの真菰のことだという説もあるようです。
水を浄化する作用があり、真菰の生えている水辺は水質が良いそうです。
出雲系の神社では特に神社のしめ縄や茅の輪に使われたり、神事が執り行われたり、真菰で編んだ草枕が御神体の神社まであります。
仏教でも、お釈迦さまが、病人を真菰のムシロの上に寝かせて直した話から、今でもお盆に飾る盆ござは真菰で作られたものが使われます。
真菰の葉を発酵して粉末状にした商品は1970年代から登場したそうで、それを祖父母は愛用していたわけです。
胡散臭いとしか思っていなかったですが、植物としての真菰は、かなりのポテンシャルを持つものだと分かりました。
昔の日本はどこもかしこもジメジメとした水辺がいっぱいあって、田んぼのあぜにも元気に自生していたのでしょう。
それを大事に活用してきたご先祖様たちの思いも感じとれます。
今は田んぼでも川でも護岸工事がされていますし、真菰が減ってしまったのはとても惜しいように感じます。
あえてマコモの粉末を買って飲んだり風呂に入れたりはする予定はありませんが、思い出との和解が出来たのも嬉しく思いました。
今思うと祖父母が、自分は信じているけど家族に無理強いする事はなかったのもありがたかった。
私自身も新しく知って、試してみたい健康法があれこれあります。今の所どハマりするほどのものはありませんが、もし、そういうものが出て来ても、祖父母を見習って家族に押し付けることはしないようにしよう、と思います。
そう出来ればきっと、後で笑って話せる家族の思い出になると思います!
おまけ
ちなみに、鬼滅の刃の登場人物にもいました、真菰。狐のお面をしてるので、漢字が似てるのもあってますし、不思議で、神聖なかんじのところも似合っています。それに「まこも」って、女の子の名前の響きとしてとても可愛いですよね!
